地蔵通りの古町屋喫茶『そよや江戸端』(文京区・江戸川橋)

2024-08-16     HaiPress

和風カッサータ&ほうじ茶プリンが美味なる店

川というのは区間によって、ちょっと呼び名が変わったりするものだが、神田川の椿山荘下のあたりは、飯田橋で外濠に合流するくらいまでを「江戸川」と呼ぶことが多い。

都心部とは思えない緑豊かな川沿いの道。

目白通りと音羽通りの交差点近くに架かる橋が江戸川橋で、有楽町線の駅もあるけれど、地図をよく見るとこれより東方の下流に西江戸川橋ってのがあって、混乱する。これは、そこよりさらに東の大曲のあたり(現在の後楽2丁目)を昔、江戸川町といって、西江戸川橋付近に西江戸川町の名が付いていたから…と思われるが、この辺の川岸は「新小金井」と呼ばれる江戸の桜名所(多摩の小金井堤の桜の方が古い)だったらしい。

さて、最近は江戸川橋より上流側の桜並木の方が有名だが、江戸川公園として整備された川づたいを歩いて、久しぶりに青緑光沢あざやかな夏型カラスアゲハの姿を眺めてウキウキしながら、大滝橋(昭和初めまで関口大滝という滝があった)を南に渡り、早稲田鶴巻町の領域に入った。この辺から山吹町にかけての裏道は、東五軒町のあたりと同じく印刷や製本の小工場が目につく。ペーパーレスの時勢にしては、案外しぶといのだなぁ…と感心した。

地蔵通り商店街には子育地蔵尊のイラストが描かれたフラッグがかけられている。

道のセンターにケヤキ並木が続く早大通りに一旦出て、山吹町の丁字交差点を向こうに渡って地蔵通り商店街へと進む。最近は江戸川橋駅南方のかなり広いエリアに「地蔵通り商店街」の名が充てられているようだが、その元は江戸川橋通りからの入り口脇に置かれた子育地蔵尊。90年代くらいに矢来町の新潮社での仕事帰りに歩いた頃は、地味な裏町風情の筋だったはずだが、近頃は路面もデザインタイルで装飾されて、外者(そともの)も歩きやすい観光ムードの商店街になってきている。

今回訪ねるのは、そんな一角の古い2階屋に入っている「そよや江戸端」という店。古民家というより建物は元商店のようだから、古町屋喫茶とでもいおうか。

レトロな古民家に気品をもたらすアンティーク家具

散歩の途中から雨の降りが強くなってきたので、雨宿りするように店内に入った。玄関で靴を脱いで、すぐ脇の狭い階段を上っていくと、京都のお茶屋さんのような座敷間が廊下の両側に置かれている。座敷間とは書いたが、アンティークな卓とイスが配置され、一瞬「畳」のように見えた床は、畳風デザインのマットをコーティングしたもの。ただし、安っぽい感じはしない。商店通り側の間(ま)の壁に設えられた鴨居などは、前身の店の時代からのをそのまま使っている。

「もとは洋品屋さんだったらしいんですけど、この2階は店の人の居間だったと聞きます。しばらく廃屋だったのを見つけて、6年前にこういうカフェを始めたんですよ」

と話してくださった店長の新実(にいのみ)喜久子さんは、設計、建築をメインとする工務店の代表取締役。古家をリノベーションすることも多いというが、この建物は戦後の昭和20年代くらいの築だという。この辺は空襲で一帯が焼けたので、古くとも戦前の建物はまずない。

もう1人、彼女の後輩の人当たりのいい青年がウェーターとして客の接待を担当、奥の厨房に調理をする人が1人、2人見受けられる。メニューやレシピの考案は、新実さん含めスタッフみんなでアイデアを出し合い、スイーツに関しては、スタッフの一員でもあるお菓子作家のソヨンさんのレシピ・監修だという。これがどれもウマそうなのだ。

なめらかなチーズや生クリームを合わせた生地に黒豆やドライフルーツが入ったアイスケーキの和風カッサータ(650円)

この日は昼食後のおやつ時間の訪問だったので、アイスの和紅茶と和風カッサータ(クリームチーズに黒豆、イチジク、夏ミカン、干しイモ、干し柿などが入った)とほうじ茶プリンなどをいただいたが、とてもおいしい。夜は酒食を楽しむ居酒屋風の場になるようだが、食材の肉、魚、かつおぶし、もち、抹茶、煎茶…といった多くのものを地元(せいぜい1キロ範囲内)の個人商店から仕入れている、というのもここの大きな特徴なのだ。

「工務店の本拠が鎌倉なので、ほぼ毎日行ったりきたりしているんですよ」

と、語る新実さん、いい感じの小麦色に日焼けしているが、サーフィンが趣味の1つなのだ。てっきり鎌倉(七里ヶ浜や稲村ケ崎)がフィールドかと思ったら、行くときは“波がいい”外房だという。

◆◆◆

今回訪れた喫茶店

そよや江戸端

住所東京都文京区関口1-5-6


電話080-9675-5426


営業時間水曜・木曜・日曜11:30~19:00金曜・土曜 11:30~21:00


定休日月曜・火曜

※新型コロナウィルスの影響で、掲載したお店や施設の臨時休業および、営業時間などが変更になる場合がございます。事前にご確認ください。


※2024年8月16日時点での情報です。


※料金は原則的に税込み金額表示です。

PROFILE

泉麻人コラムニスト

1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『黄金の1980年代コラム』(三賢社)『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。『大東京のらりくらりバス遊覧』の続編単行本が2021年2月下旬、東京新聞より発売された。


なかむらるみイラストレーター

1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学卒。著書に、月刊たくさんのふしぎ『かっこいいピンクをさがしに』(福音館書店)、『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。泉さんの本では『東京ふつうの喫茶店』『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京 のらりくらりバス遊覧』『続・大東京 のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などでイラストを担当している。


https://www.tsumamu.net/


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