東京都江戸川区が開いた「駄菓子屋居場所よりみち屋」の店長として、孤独を感じる人々に寄り添っている。ひきこもりの人たちが駄菓子の販売や接客などを体験し、就職を目指して経験を積んでいるほか、店の奥には誰でも自由に出入りできる「居場所」もある。勇気を持って訪ねてきてくれた人たちと、ゲームをしたり、何げない話をしたりして過ごす時間を大切にしている。
福島県郡山市出身。「子どもが大好き」で、大学3年生の時、インド・コルカタの孤児院に赴き、ボランティアとしてハンディキャップのある孤児たちと触れ合った。コルカタでは、亡くなる直前の人を受け入れる「死を待つ人の家」でも活動。これらの経験が、孤独を感じる人に寄り添う取り組みの原点にある。
大学卒業後は、スイミングのインストラクターとして子どもたちを教える仕事などを経験。2019年から3年間は、江戸川区内の中学校で学級指導補助員をした。
補助員として生徒に伴走した経験も今につながっている。家庭環境に恵まれないことなどで前向きな気持ちになれず「高校には行かない」と言っていた男子生徒には、生徒の自宅から通いやすい学校や定時制の学校など選択肢を示したりして、根気強く関わった。じっくり話すうちに、生徒は次第に考えを変え、最終的に進学する道を選んだ。困難を抱える一人一人と向き合う仕事にやりがいを感じた瞬間だった。
今もよりみち屋の利用者たちと話すのは楽しく、心を開いて自分を信頼してくれたな、と感じるときがなによりもうれしい。「楽しいことを考えると、悩みが減っていく。ここは、楽しい話ができる場所」。ひきこもりを脱したいと、就労体験を積む人たちの中には失敗を恐れる人も多いが、「ここでは失敗してもいいんだよ」と繰り返し伝える。かつての利用者が無事に就職してからも時々会いにきてくれることもある。元気に社会生活を送っている姿を見るのが喜びだ。
自分も子どものころ、家族以外の地域のお年寄りたちからも目をかけてもらったことを思い出す。「親や家族以外にも、信頼できる大人が地域にいると気付いてほしい」。そんな思いで、扉を開く人をやわらかい笑顔で迎える。(鈴木里奈)
<駄菓子屋居場所よりみち屋>ひきこもり状態の人や家族を支える場として、江戸川区が2023年1月に開設。都営新宿線瑞江駅そばのマンション1階にあり、区の委託を受けた地元の「しろひげ在宅診療所」が運営する。オープンは平日午前10時~午後5時。土日祝日は休み。