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「秘密会議」で合意形成に大失敗…その反省は?外苑再開発めぐり再び説明会へ 無視姿勢を改めない三井不動産
2024-09-24 HaiPress
東京・明治神宮外苑地区の再開発で、懸案になっている樹木の伐採を619本に見直す案を事業者が公表した。だが、「緑を犠牲にして開発する構図に変わりはない」などと批判は消えていない。問題がここまでこじれた要因の一つに事業者側の説明不足が指摘されている。28日には見直し案に関する住民説明会が開かれる予定だ。「対話を拒んでいる」とまで批判されるこれまでの姿勢は改まるのか。(森本智之)
◆学識者の意見に直接回答しない姿勢で一貫
三井不動産が再開発計画の見直し案を公表した明治神宮外苑=東京都港区で、本社ヘリ「あさづる」から
「個人的にも非常に残念ですが、直接、日本イコモスへの返答は何もありません」。外苑再開発の見直しを求めてきた日本イコモス国内委員会の岡田保良委員長が明かした。
日本イコモスは、世界遺産登録を審査する国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」の日本支部に当たる学識者の団体だ。都心の公共空間として100年近く守られてきた外苑の価値を重視。都市計画が専門の石川幹子・東京大名誉教授が中心となり、事業者代表の三井不動産には、2022年から2年弱で、約10件の意見書や要請文を公表してきた。三井側と直接会って意見交換する場も継続して求めてきたが、返事すらもらえない状況が続いている。
◆報道機関には説明しても学識者との対話は避けた
象徴的なのは、パリのイコモス本部が計画撤回などを求めて昨年9月に出した緊急声明「ヘリテージ・アラート」への三井側の対応だった。この声明は国際的な注目を集め、直後に東京都が樹木の保全策の検討を事業者に要請。再開発は現在までストップすることになった。
「ヘリテージ・アラート」をめぐり会見するイコモスや、日本イコモス国内委員会の幹部ら=2023年9月15日、東京都千代田区の日本記者クラブで
日本イコモスはアラートへの回答を求めたが、返事は届かなかった。その一方で三井側はアラートへの反論をウェブサイトに掲載し、東京都庁記者クラブで報道陣への説明会も開いた。
この時、記者は「なぜ日本イコモスに直接回答しないのか」と尋ねたが、担当者は「個別の団体とどんなやりとりをしているかの回答は控える」と、返事をしたかどうかさえ明らかにしなかった。別の記者からも重ねて質問が出たが「回答は控える」と応じなかった。
◆異論には無視を決め込む…それは住民に対しても
無視を決め込むような事業者の姿勢に対して日本イコモスの理事らはこれまでの記者会見で「異論があれば討論して意見をまとめていくのが当たり前の姿勢だが、そうしたプロセスが一切ない」などと批判を受け入れない姿勢を問題視してきた。
こうした姿勢は、イコモス相手に限ったことではない。
説明会の開催を求め、再開発事業者の日本スポーツ振興センターの担当者(右)と面会する「明治神宮外苑を子どもたちの未来につなぐ有志の会」の加藤なぎさ代表(左から3人目)ら
外苑から徒歩圏にある東京・南青山の子育て世帯の住民らでつくる「明治神宮外苑を子どもたちの未来につなぐ有志の会」は「対話型の住民説明会」の開催を事業者に求めてきた。
会が発足したのは、再開発の着工のわずか1カ月前の昨年2月だった。直前のタイミングになったのは「それまで事業についてほとんど説明を受けておらず、内容を把握できていなかった」(加藤なぎさ代表)からだ。
メンバーの子どもたちは外苑で少年野球の練習をしたり、テニス教室に通うなど普段から利用してきた。だが、工事の準備が始まり、計画が動き出したことを知っても、ほとんど情報はなかったという。
◆「招待制」、録音録画も禁止…なぜか説明会が厳戒態勢
近隣に暮らし、外苑になじみのある人たちにもかかわらずなぜこんなことが起きるのか。理由の一端はこれまでに事業者などが開いてきた住民説明会の開催方法にある。
2020年1月の住民説明会の案内状
着工前だった2020〜21年にかけ事業者は3回、計6日間の住民説明会を開いた。だが、対象者は近隣に制限した。参加した住民によると、2020年の説明会では、開催を広く公表せず、対象者の自宅の郵便受けに開催通知をポスティングする方法で告知した。
その通知書類には番号がふられ、当日は持参しないと会場に入れなかった。録音録画も禁止で、ある参加者は取材に「秘密会議のような厳重さ」と表現した。
◆意見が出ても計画は変えない、情報は後出し
一連の説明会に参加した住民によると、その都度「自然環境への悪影響」「景観の悪化」など、現在指摘されているのと同様の懸念が住民側から出た。だが、事業者の計画案は大枠を変えずに維持されてきた。
なぜ指摘は受け入れられないのか。説明会の開催は条例などで義務付けられているが、意見を反映させる義務はない。別の住民は「説明会ではなく、決まったことを伝えるだけの通告会」と批判する。
2023年7月に開かれた住民説明会の会場近くで、再開発に抗議する人たち。この時は外苑から380メートル以内の住民らに対象が制限された=東京都千代田区で
説明内容も後手に回ってきた。樹木の大量伐採は、イコモスの批判を受けて初めて多くの人が知ることになった。なぜ歴史的な風致地区に超高層の商業ビルが建設できるのか、なぜビルを建てる必要があるのか、といった重要な問題も一連の批判の後に明かされた。
◆「外苑再開発で最大の問題は住民の合意形成に失敗したこと」
こうした姿勢に公的な場や組織からも批判が出ている。2022年5月、外苑再開発をめぐる東京都環境影響評価審議会の部会で、有識者委員である斎藤利晃・日本大教授は「計画が粛々と進められ、プロジェクトが決まり、どういう建物をどんな感じで造るかが決まり、情報公開はこれから(力を入れる)ということですが、順番としてよろしくない」と苦言を呈した。
今年5月には、国連人権理事会のビジネスと人権作業部会の報告書で「環境への影響を検討するプロセスにおいて、住民との協議が不十分との報告があり懸念している」と批判された。
大手ゼネコンで再開発事業を担当し、地元や政治家らとの根回しに当たってきた元幹部は「後から『知らなかった』と言われるのは最悪で、外苑の再開発で最大の問題は住民の合意形成に失敗したことだ。外苑は文化的にも環境的にも価値がある。本当に理解を得るつもりなら、計画を固める前の段階で、幅広い関係者から意見を聞くべきだったのではないか」と話した。
明治神宮外苑のイチョウ並木(2022年撮影)
事業者は今月28日、再開発見直し案について住民説明会を開く。だが、今回も対象者は事前に区から要請があった新宿区、港区の住民に限定。会場の広さを理由に各先着300人に絞った。近くに住む渥美昌純さんは住所が渋谷区のため対象外。「工事中は車両が通ったり渋谷区民も影響を受ける。歩いて10分の場所に住んでいるのに」と憤る。
◆三井不動産幹部の言葉は…今回もまた「通告会」なのか
事業者が見直し案を公表した9日、三井不動産の対中雅人ビルディング事業第二部長は反対意見が出た場合の計画変更の可能性を報道陣に問われ、「今日発表した内容で基本的に前に進めていきたい」と述べた。今回の説明会も「通告会」となる懸念はある。
有志の会の加藤代表は「事業者は住民とも専門家とも対話を一切していない。特にイコモスをはじめとする専門家の批判に答えてくれれば、事業に対する市民の理解も深まるはずだが、事業者の態度は変わっていない」と話す。
三井不動産の広報担当者は28日の説明会について「説明会での意見は真摯(しんし)に受け止め、可能な範囲で計画への反映を検討する」と回答。事業者の説明責任については、説明会に参加できない人からもウェブサイトを通じて質問に回答しているなどとして「多くの皆さまの理解をいただけるよう引き続き努める」とした。
◆デスクメモ
その政治家が掲げたのは「聞く力」。異論は聞かずに強引に推し進めるそれまでの政治が変わるかも。多くの人が期待した。でも、彼はその力を発揮しなかった。強引に物事を決め、国民の支持を失った。やがて政権も手放す。やっぱり聞く力って大切だと思う。実業界も同じでは。(岸)
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